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「もう、ひとりで抱え込まなくていいんです」

カスハラ対策が義務化される、本当の意味

「また明日も、あのお客様から電話が来るかもしれない…」

夜、ベッドに入っても頭から離れない。胃が痛い。朝が来るのが怖い。

接客や電話対応の現場で働く人たちの、そんな声を聞くたびに胸が痛みます。本来、お客様と向き合う仕事は、やりがいに満ちたものであるはずなのに。

でも、もう大丈夫。

2026年10月から、カスタマーハラスメント(カスハラ)対策が、企業の義務になります。

これは「理不尽なクレームに、ひとりで耐えなくていい」と、国が公式に宣言したということ。あなたを守る仕組みが、いま動き始めています。


まず知っておきたい、今の現実

厚生労働省の調査(2023年度)によると、過去3年間に27.9%の企業がカスハラの相談を受けたと答えています。3年前と比べて8.4ポイントも増えているんです。

どんなカスハラが起きているかというと、

  • 何度も何度も繰り返されるクレーム
  • 威圧的な言い方、怒鳴り声
  • 「責任者を出せ」「土下座しろ」といった過度な要求
  • SNSでの誹謗中傷や、名誉を傷つける書き込み

こうした行為が、接客業だけでなく、医療・介護・教育・コールセンターなど、あらゆる現場で起きているのが今の日本です。


なぜ「義務化」されたのか?

今回の義務化は、労働施策総合推進法(パワハラ防止法)の改正によるものです。

厚労省は、こう明言しました。

「事業主は、顧客等からの著しい迷惑行為によって労働者の就業環境が害されることを防ぐための措置を講じなければならない」

📌 施行日:2026年10月(2025年6月に改正内容が公表されました)

対象となる”加害者”は、お客様だけではありません。取引先、施設の利用者、保護者、患者、そしてSNS上の第三者まで含まれます。

東京都では、すでに「カスタマーハラスメント防止条例」が施行され、電話やネット上の迷惑行為も禁止されています。

🔗 厚生労働省 カスタマーハラスメント対策


企業に求められること—5つの柱

カスハラ対策として、企業には次のような「雇用管理上の措置」が義務づけられます。

① 方針を、はっきり示す

就業規則やハンドブックに「カスハラは許さない」と明文化し、全社に通知します。これは、従業員への「あなたを守ります」というメッセージです。

② 従業員に、知識と技術を届ける

  • カスハラとは何か?
  • 受けたときの心の守り方
  • どう対応し、誰に伝えるか
  • 断るためのコミュニケーション術(アサーション)

研修を通じて、現場の人たちに「武器」を持たせてあげることが大切です。

③ 相談できる場所を、ちゃんと用意する

相談窓口を明示し、担当者を決め、相談した人のプライバシーを守る。「言っても無駄」と思わせない体制が必要です。

④ 事実を確かめて、適切に動く

録音やログを保全し、加害者への対応(利用停止など)を行う。そして何より、被害を受けた従業員をケアすることが最優先です。

⑤ 再発を防ぐために、振り返る

現場の声をもとにマニュアルを見直し、必要なら配置転換や休養も検討する。「次は起こさせない」仕組みを育てていきます。

ポイントは、パワハラ防止と同じくらい、丁寧な対応が求められるということです。


カスハラ対策は、「心」と「人」を守る投資

実は、カスハラ対策って、単なる”クレーム対応マニュアル”の話じゃないんです。

① 心理的安全性を、取り戻す

理不尽なクレームが続くと、人は萎縮します。「また自分が責められるかも」と怯えながら働くのは、本当につらいことです。それが続けば、モチベーションは下がり、ミスは増え、自分を責めるようになってしまいます。

② 離職を、食い止める

特に介護・医療・接客業では、「外部からのハラスメント」が退職理由の上位に入っています。カスハラ対策は、大切な人材を失わないための、経営戦略でもあるのです。

③ 企業の信頼を、育てる

SNS時代の今、「従業員を大切にしている会社」は、それだけで選ばれる理由になります。ブランドは、外だけでなく、中からも育つものです。


今すぐ始められる、3つのステップ

法施行まで、残り1年を切りました。まずは、この3つから始めてみてください。

① 就業規則・ガイドラインを整える

カスハラの定義と対応方針を文章にして、全員が見られるようにしましょう。「紙に書いただけ」ではなく、「ちゃんと運用されている」ことが大事です。

② 初期対応マニュアルをつくる

誰が・どの段階で・どう対応するか。ひとりに任せず、組織として守る流れを明確にしましょう。

③ 従業員研修を、体験型で行う

知識だけでは、いざという時に動けません。

  • 断り方の練習(アサーション)
  • 感情のコントロール(アンガーマネジメント)
  • ケース別ロールプレイ

「練習しておくこと」が、現場の安心につながります。


さいごに—義務であり、同時に”魅力”になる

今回の法改正は、企業にとって新しい負担ではありません。

従業員を守り、働きがいを育てる、絶好のチャンスです。

カスハラ対策を整えた先には、こんな未来が待っています。

  • 従業員が、安心して笑顔で働けるようになる
  • 心理的安全性が高まり、チームが強くなる
  • 離職率が下がり、採用コストも抑えられる
  • お客様との関係も、より健全で信頼あるものになる

カスハラ対策は、これからの企業経営に欠かせないテーマ。

そしてそれは、「人を大切にする会社」として選ばれ続けるための、いちばん誠実な一歩でもあるのです。